俳句  その 1

走辺憲史

 

 

周防   

 

口腔を

広しと踊る

へびの舌。

 

二尺超す

たばこの青葉

ちぎり採る。

 

渋茶のみ

肩で息する

老婆かな。

 

なつかしき

顔は夏日の

照りの中。

 

雨の日の

蔵の二階の

うすあかり。

 

ひとつかみ

藁に水吹き

これを編む。

 

山裾に

けなげに群れる

和水仙。

 

土瓶より

まめ茶を飲んで

昼にする。

 

この里に

生まれし者も

流離せり。

 

田の縁を

ぼんやり照らす

水銀灯。

 

 

 

 

 

 

幼子の

下駄打ち寄せる

朝の海

 

舟端を

かすめて過ぐる

夜光虫

 

蚊を叩き

その間に笑う

夏うちわ。

 

縁台に

スイカに蠅に

焼きなすび。

 

この村の

人も農地も

みな消えて。

 

夕涼み

思い出せぬは

汝の顔。

 

みかん花

いつ咲いたのか

ふと匂い。

 

路線バス

テープを回して

村の名を。

 

薄桜

バス通る道

峠道。

 

子の頃に

幾度も通いし

峠道。  

 

 

 

 

 

 

海を背に

峠を越せば

またも海。

 

船越の

とうげの向こうは

伊予の海。

 

畦に避け

バスを行かせる

島の道。

 

今日は凪

あすも凪よと

爺が言う。

 

農薬の

かゆき手を掻く

夏の朝。

 

牛小屋の

うしろに繁る

夏みかん。

 

ふるさとの

匂いと言えば

ほしいわし。

 

いしがきに

春の日のさす

瀬戸の海。

 

桐の葉の

吹きたまりおる

蔵のかげ。

 

じいさまが

縁のむこうで

死んでおり。