キャンパーの旅

 

走辺憲史

 

              アメリカ大陸では、旅行も日本の国内旅行とはそれなりに様子が変わる。国の広さが違うのだ。家族旅行の事を例にとってみよう。夫婦二人、子供数人で10日ばかりの旅行をするとする。それだけの回数ホテルに入るとなると,費用もけっこうかさむ。子供達もうるさい。子供はホテルめぐりでは退屈する。時にはホテルも結構だが、ファミリーとなるとどうしたら親も楽,子供も楽で退屈しない、その上コストも適度という事が大切となる。出来たら自然をめぐりたい。海、山のハイキング、ビーチでの遊び、サイクリング等々入れると、自転車も積んでいきたい。バーベキューのセットも持って行きたくなる。こういった状況の場合、普通は家にある車に、積めるだけのものを積む事になる。そうして何度か車を使う旅行を繰り返していると、そこになにやらスタイル上の進化が現れる。

              我が家でも、何時も暇さえあればどこかに行っていた。 週末,休暇毎にさてどこへ行くかと騒いでいた。ロスアンジェルスに住んでいたからから,サンフランシスコまでは約7時間の距離だ。夜出れば,次の朝までにグランドキャニオンにもたどり着く。非常に美しいオレゴン州の海岸までは,約十時間。一番よく行った、北カリフォルニアのメンドシーノ コーストまでも同じく約十時間。これらは車で片道の距離である。旅行は車ベースなので、毛布ぐらいいれておけば、なにも支度等なく,エンジンをかけて,さあ行くかといった具合だった。まだ小さかった娘は後ろで一人楽に寝られるし、妻はシートを倒して車内で仮寝する。時速75マイルくらいで,さてさてと、ぶっとばすわけだ。道路はほとんどまっすぐなので,クルーズコントロールでスピード設定する。後はよろしくといった感じだ。

              こういう旅行のスタイルに慣れていると,ホテルの予約、汽車,飛行機の予約とか、じつに面倒だ。車ではそういったプラニングは全然なし。時々ガソリンを入れるくらい。車で走っていて、すばらしく景色の良い海岸に出たとする。そこで車を止めて、紅茶でも入れて二三時間過ごしたいと思うわけだ。夕方になったら、たき火のそばでビールでも飲むのもいいかと思う。ビールを飲んだら眠くなるから,朝までこの海岸にいるかと思う。よく出来たもので,そんな場所には見渡せば、ステートビーチ(州の公園)、キャンプ場はこちらとか書いてある。安い値段で林の中に、海岸にコインシャワー付きのキャンプ場がある。

           これを何度もやるのならなら、普通車ではなく台所つきのキャンパーでも買えばいい。だが、町中に住んでいる者にとっては,キャンパーは買えても,置き場は別問題である。それでうちでは最初はフォルクスワーゲンのバスにした。外形は普通車とあまり変わりがない。ワーゲンバスにもキャンパー仕様の台所付きもあった。だが、何もないほうを選んだ。ワーゲンバスでは,あちこち旅行した。カナダにもいった。小型バスであれば、テントがわりにどこにでも寝られるし、お茶ぐらい湧かせるから、便利と言えば便利だった。それにアメリカ車みたいにガソリンを食わない。テントのように設定もない、風が吹いてもテントのようにばたばたしない。地面に直接寝なくてもよい。虫とか,蛇とか、気にしなくてもよい。床は平だから寝るのは楽だ。グランドキャニオンでも、砂漠でも海岸でも、美しい所はどこも風が強く吹いたりするのだ。

              ただその頃のワーゲンバスは2000cc ばかりのエンジンで、おおきな坂道になると、みなさんにどんどん追い越された。都市のラッシュアワーになると、大きな箱が邪魔でどうも動きがにぶい。それで次は、始めは嫌っていたアメリカ車を買った。小型トラックである。アメリカのどの家庭にも一台はあるピックアップトラックと言われる小型トラックである。小型といってもワーゲンバスより車体は大きい。エンジンは家庭用でも4000から8000cc くらいまである。小型と言ってもちっとも小さくない。頑丈がテーマに作られており、止まったら、その辺りの金槌でがーんとどやせば、また走るといったスペックで出来ている。うそではない。そのトラックが止まりエンジンがかからないので、かかりつけの修理士に電話をしたら、このあたりを、金槌でがーんと叩けと言った。そのとおりにやったら,問題なくスタートした。これは経験談なのだ。ピックアップトラックも頑丈だけでは売れないので,あるいは儲からないので、中は乗用車以上に豪華なのもある。シートはレザーでヒーター付き、パネルはローズウッド、サウンドシステム完備とか、上をみればきりがない。大きいから長距離旅行には実に楽である。後ろの荷台もカーペットがひいてあり、上はグラスファイバーのシェル(屋根)がついていて、雨風,だいじょうぶ。大人三人寝袋を並べられる広さだ。ガソリン食ってもいい、楽なのがよいとなった。

              このあたりから多くの人々は、キャンパーにはまり始める。トラックに十分パワーがあるものだから、この際、後ろに一つキャンピングトレーラーを引っ張るかとなる。あるいは、シェルの変わりに、トラックの荷台に載せるキャンパー(スライドオンと呼ぶ)のを一つ買うかとなる。 寝るだけならシェルでも十分だ。しかしキャンパーとの差は、台所とトイレである。 スライドオンにしろ、引っ張るトレーラーにしろ、それらが付く。居住性をあげるとかさがどうしても大きくなる。またトレーラーの場合、法的に走行スピードがずいぶん制限される。高速ではなかなか止まらないのだ。スライドオンでもやはりそのかさで、空気抵抗が大きくなり運動能力をかなり制限される。オートキャンプ、すなわち、「大きな箱を引っ張って歩かねばならぬ」というあほらしさが,ここに生じる。

              それで我々,デザインを職とする者は、それら現存のキャンパーの短所をのぞけばいいではないかと考える、スライドオンのかさを取り除き,重さもなくすればよいではないかと考える。ガソリン代が今よりやすくなる時代は来ない。欲しい設備の重さを減す。大容量を止める。居心地よさというのをサイズ無しにどう得るかという事にもなる。それらは解決出来ない問題ではない。スライドオンキャンパーの場合、(トラックの荷台に載せるのですが)普通のシェルの大きさにまとめておいて,キャンプ場に着いてから、ふくらませればよい。トイレも、台所も固定部分はそんなに高さはないから,そこは作り込んでおいても問題ない。壁,天井さえ膨らませれば,広々と使える。これはトレーラー形式(引っ張るほう)でも同じで、全体の高さを半分に押さえておいて、油圧式で天井、壁を持ち上げればよい。

              こういった、油圧式のものはじつは既にある。スライドオンもトラックの屋根の高さで押さえたものもすでにある。あるのだが、日曜大工みたいで見た目がちっとも素敵でないことだ。低い箱形のトレーラーで箱のふたを上に押し上げれば、中からテントが出てくる、テント折衷式のキャンパーもある。つまり、問題はコンセプトではなく、その製品としての完成度である。安く上げるためほとんどが薄い合板に、アルミの波板をぱちんと止めた程度のものだ。工業製品というよりは、週末のガレージ作品のようだ。実際に安くて,安っぽい製品だ。それが車の上に乗ると,目が反乱を起こしてしまうのだ。

              素材としてグラスファイバーのシェルはずいぶん重い。カーボンファイバーとまでいかなくても、何か軽量で複合カーブ自在というのがあるはずだ。値段的にカヤックを作るくらいのプラスチックのほうが安いのではないか。あれはあまり重くない。ゴミ箱にする塩化ビニールでも,グレードの高いものもあるのではないか。複合構造のテントファブリックも可能性がある。重層の中に径1センチばかりの空気パイプをめぐらし、走行中は小さくてもキャンプ場に着けば高圧空気で外形を成形する手もある。風船式だ。インテリアはキャンプ用であっても、トイレ、台所の家具等はある程度の質感があってほしい。外観に負けないほどのクリーンな素材であってほしい。安アパート家具を小型化したような物ではいやである。この際どうしてもキャンパーの制作会社をやるかなあと、何時も思っていました。