櫓を削る事 (海辺の風景)

 

 

走辺憲史

 

              櫓を削るというタイトルである。櫓は削るものなのだ。自分は日本のある小島で生まれた。その小島の名前は大島という。ものは比べ様で、小さい島に比べれば大島でグリーンランドに比べれば実に小島である。今回は櫓という物を削ってこのカナダ近くの内海を漕ぎ回り、櫓などを見た事も無いこのあたりのボート好き達をおどろかせてやろうかと思ったわけだ。まあ,別に驚いてくれなくてもよいのだが、自分でしばらく櫓を漕いだ事無いから、突然やってみたくなっただけかもしれない。あれは慣れれば結構推進力があり、その重みを使えばあまり労力いらないようになっている。なかなか優れた舟具なのだ。        

              櫓と言っても,知らない人は知らないだろう。船外機という舟の尻に引っ掛ける気軽な機械が出来る前は,日本人は櫓を漕いで舟を動かしていた。それで隣の村とか外国などにもいったものである。何トンもの荷物を一人でも櫓で遠くまで運ぶ事が出来た。 自分の意見では非常に優れた操舟具で,ただ長い板きれをぐねぐね不思議な形に動かす事により、舟は前に行くだけでなく舵の役目をも果たす。板二枚を舟の両横にたらして、えんやらと波を掻く西洋のオールより力学的によほど優れている。櫓には前後にゆれる重しが付いている。おかげで巡航速度であれば、大汗をかかなくても、ゆらゆらとその重しを扱う事により、老人一人でもかなり大きな舟を押していく事が出来る。スピードを出すためには昔から八丁櫓とか、大勢で漕ぐ事も出来た。鯛等釣るには片手で釣り糸を操り、片手で櫓を漕ぐ櫓いうことも出来た。舟を流れと瀬、岩場にあわせて調整するためである。

              では、櫓とはいったいどんなものなのか。それは真横から見ると、「へ」の字型に曲がっている。曲がっているというより、二つのパーツで出来上がっている。への字の右半分は水に浸かる部分で、脚部という。左半分は舟の上で漕ぎ手が立ったまま握る部分で椀部という。これら二つの部分の重さのバランス点あたりに突起がありそこには木の中に穴があけられている。船尾につけられている櫓杭の上部にその穴が被され、櫓先を前後そして上下にも動かせるようになっている。それで椀部の操作により、水中に浸かっている脚部をいわば,水平8の字にと動かす。それに櫓とは結構大きな物で、多くの場合、舟と同じくらいか、それに近いほどの長さをしている。材は多くの場合樫などの堅木を使う。

              それで櫓というのはどんな形態の舟でもつかえるのか。それが,そうはいかないのだ。それで舟の形態について先ず,述べる。昔の伝馬舟等、4メートルばかりの小さなものでも、櫓が使えた。理由は、木造であったから、小さくても濡れた木の舟は結構重かったのだ。同じ大きさの近年のグラスファイバーの舟で、伝馬舟のようにひら底であると櫓は使えない。そんな軽い舟で櫓を使い水を掻けば、舟は左右に曲がるだけで舟は前に行こうとはしない。前に行く為には舟を横ずれから守る、舟底の尖りが必要だ。つまり、抵抗の無い平底ではだめだと言う事だ。今うちにある小舟はグラスファイバーなのだが、高速モーターボート用の舟体をもっていて、底はV—字が三つになっている。中央のVが一番深い。これなら櫓がつかえる。

           櫓を作るにつきまず問題は、櫓杭をどう作るかという事だった。いるのは2−3センチくらいの球体だ。そしてそれを支える、径1.5センチくらい、長さ4センチ位の柱が要る。それが舟の後尾に取り付けられ、櫓の動きの支点となるわけだ。強度もかなり必要だ。日本では大体鉄を削って成形するようだ。ほかの機械部品からなにか借用してこれないかと色々探したが、探しているときには,まあ,ないものだ。アメリカの船具屋にもいって色々似たような物を探したがなにも無かった。勿論、工具屋にも何軒もいった。うちに溶接器はあるが、いまガスがはいっていない。溶接機無しで鉄のかたまりをガンガン叩いたり、がりがりこっすって、いわばT-字を上下さかさまにして、下を舟にボルトで固定して、その上の棒の先に2センチばかりの球体を作るという作業は結構たいへんだ。球体が大きくてもよいのならトラックのうしろにつけるトレーラー牽引用の直径2インチばかりの鉄の球はある。しかし、それでは形は正しいのだが、サイズが大きすぎるのだ。まあ、径二センチ位が適当ではないか。

              それで櫓杭から作る事にした。出来たら修理用にボルトの上に球体が乗ったものにすれば、ボルトを緩めて、舟から外すように出来る。似たようなサイズの球体を買ってきて、後はグラインダーで削った。櫓は家にある板を適当に加工した。一度でうまくいくとは考えにくかったので、ざっと作ってみて、海でテストすれば良いと思った。そのあとまた削るわけだ。木を削るグラインダーは何種類もあるからガリガリ造形したあとで仕上げ鉋を使った。大体半日位で出来た。海ではじめてテストしたらバランスがよくなかった。海につかる部分が2尺ばかり短かった。それはすぐに改良した。まあまあ、漕げるようになった。ひとつ問題は、櫓は基本的に立って漕ぐもので、立つときは舟のビミニは使えないという事だ。ビミニは舟の上を覆っているキャンバスの屋根構造である。折りたたみ式だが、それでもフレームが櫓の動きの邪魔になる。あまり暑くて、日陰がどうしても欲しいときは櫓は家においておくより仕方ない。そのときは洋式のオールが付いているから、モーターを切っても動く事は出来る。

 

櫓杭と櫓の写真を入れる。