シンプル ライフ(森の中の人生)

 

走辺憲史

 

              ヤッピーの時代というのがあった。今も続いているのかもしれない。タイム誌での葬式があったから,もうないのだともいわれている。その昔の(60年代)ヒッピーに対比した、若くて、健康で、豊かで、見かけもよろしく、この世での成功を幸福の表現と思っている、都会生活者達といった語彙だ。かってのヒッピー達は,(アメリカでは)豊かな生活をする親に反抗して、髪,ヒゲをのばし、むさ苦しい格好で、マテリアル世界を(かなり)否定していた。まあ,どちらも中産階級的文化の反映であった。自分がなりたいというのと、親を見ていて 「あれ、もう,ええわ、、」といった違いでもある。ヒッピーが先で,後がヤッピーという時間差は,何かおかしみがある。人の本性はどちら、、という話でもある。

 

              もっと,昔を見てみると、1845年に、ヘンリー デイヴィッド ソロー  (Thoreau) というアメリカ精神の一代表のような,作家,哲学者,が マサセッチューセッツ州にあるウオルデン ポンド (池,実際には結構大きな湖) のそばに森の小屋を建て、シンプル ライフについて,本を書いた。内容は、君が忙しく働いて,金いっぱいの、マテリアル ライフに突き進んでも,あんまりうらやましいものではない、、」といった、わかりやすい本である。人生の持ち時間を、稼ぎと出世だけに使うと、残りはもう無くなるぞという、わかりやすい本である。死ぬ前に「あれっ、、、、」という事になるぞといった内容だ。

              その森の小屋はどんなものだったかというと、質素なベッドと机を置くと、たいしてスペースは残らないぐらいのもので、(写真参照)シンプルさで好感がもてるものだ。ただ,2、4キロ向こうには彼の本宅があったそうで、そちらは普通,あるいは普通以上の大きなものだったのかもしれない。小屋をたてた土地は彼のものだったのだろう、14エーカーあったという。日本の坪に直すと,1万7000坪。ちょうど,桂離宮より,少し狭いくらいの面積である。なんだ,八条宮さんと同じか,ともいえる。桂離宮は、瓜畑の中の「かろき茶屋」から始まったといわれる。

             欲張りの80年代,90年代“を過ぎ、〔シンプル ライフ〕をテーマとした本がたくさん出た。数冊買ってみたが、よい事が書いてある。ぜひやろうという気にさせる。ただ,中にはよくない事も書いてある。シンプル ライフを始めるためには、まず、要らない『ボート』を売りなさいと,書いてある。一年に何度も乗らないくせに、あれは無駄の代表です,と書いてある。これは困る。そんな事を言うのなら〔シンプル ライフ〕はやめる。言っていい事と,言ってはいけない事がある。うちには今,三台ばかりボートがある。カヤックとかもある。あれはタッチしてはいけない。

 

              ここまでが前置きで,ここからが今日のトピック。前回,この森にスタジオ/仕事場を自作したお話しをした。下のゲストハウスはちいさめだから、(坪で言うと12坪ばかり)暖房は電気ストーブで十分とした。だが,二階のスタジオは10m  X 12m 位で、その上天井が高い。今回はそれをどう,冬の間暖めるのかといった話だ。

              目的は明解なのだが,結構、選択は簡単ではない。それは電気,プロパンガス、灯油、薪、その他のエネルギーとの比較でもある。そして、施工コスト,運転コスト,耐久性,地域の法律,安全性そういったものの選択でもある。今日、田舎に/森の中に住むという事は,それなりに制約がある。

              この島には、普通に電気は来ている。海の底を潜って来ている。 今のところ、島の半分くらいは電線は地下敷設となっている。残りが,昔ながらの電柱,電線である。大風,大雨で,木の枝が落ちてくると、停電となる。本当の大風だと,数日から、一週間も停電となる。クレーン付きの修理トラックが何台も来るのだが、まず倒れた木からのけていかねばならない。

              我々の住んでいる家は、水は井戸より来る。井戸には深いところに電気のポンプが入っている。電気が来ないと水道の水が来なくなる。シャワーも,トイレもだめになる。それで終わりではない、家のヒーターはプロパンガスなのだが,そこで暖められた空気を家中に運搬するのは電気のファンである。電気が来ないとガスもつかないという安全装置がついている。空焚き防止だ。(温度設定は電池のサーモスタット)温水器はガスで、これは停電中でも動く。しかし、水を温めても次の水が来ないから、水は出てこない。水のタンクを今のより大型にすればよいともいえるが、それはどちらかというと水圧の問題である。一日でも人はずいぶん水を使うようだ。

              電気とガスと水の関係を、理解頂けただろうか。プロパンは250ギャロンのタンクにはいっている。全自動のガスヒーターは洗濯機の倍ぐらいの大きさで、そのための小部屋がある。ガスタンクは直径1メートル,長さは2、3メートルある。それにいっぱいプロパン入れてもらうと,$900くらいかかる。妻はここの景色が大好きなのだが、停電が大嫌いだ。水が来ない、トイレも使えない、テレビも、電話もないとかが嫌いのようだ。キャンプ場と思えばなんということはないとおもうが,嫌いなものはしかたない。それでここに引っ越して最初にしたのは、発電機を備える事だ。前から,テレビ,電灯くらいは付けられる発電機はあったのだが、それでは微力で、井戸の大きなモーターが動かない。ガスヒーターのファンが動かない。冬に水のない、寒い家はやはりこまる。それで,5000ワットくらいの発電機をつけた。そのくらいになるとエンジンも600ccはあるから手動スタートはだめ。 そういう家全部切り替え式の発電機になると,法律上、メインパネルにリーガルな切り替え盤を取り付けることが義務づけられる。こちらの電気があちらさまに流れないようにということだ。またまた、追加工事。発電機もガソリンを使うから、一酸化炭素もでるので家からどう,離すかという工事もある。それらを全部やった。今の田舎生活の一端がわかっていただけただろうか。

              電気はつながっている限り便利なもので,コストもそんなには高くない。しかし、電気ヒーターにして、何千ワットを一日中ガンガンつけると、ひと月,3、4百ドルかかると近所の人が言っている。うちの場合、始め電気ストーブは、あまり使わないようにした。昨年の冬は ,家のガス代が,ひと月 $300ドルくらいかかっていた。それには台所の調理と温水器も入っている。スタジオを同じガスにすると月に$500はどうしてもかかるだろう。温度を十分暖かめにすればもっと,もっとかかる。

       これらは毎月のコストだから,ばかにならない。熱の単位は btu という。しかし、暖房具を買うときにそれをメーカーは隠したがるようだ。電気ストーブは1500ワットね、、とか書いてあるだけだ。ガスストーブはまじめに10000 btu とか書いてある。電気赤外線ストーブには書いてない。書いてないが最大 4000 btu位らしい。ガス赤外線ストーブにも書いてない。まきストーブには20000 btu とか書いてある。書いていないのもあって、1000スクエアフィーとの部屋/家までね、、というのもある。熱量を比べるのは大変だ。どれがいいのやら,どれが健康にいいのやら、どれがながく持つのやら,燃料費は実際にいくらなのよ、、というのがわからない。

       日本でよく使われる石油ストーブも調べた。石油ではなくて,灯油をもやしている。灯油はガソリンスタンドでは売っていない。Ⅰギャロンづつ店で買うと大変高い。トラックで一度に500ギャロンくらい持って来てくれるようだが、それだけのタンクを付けている人はいないようだ。なぜかストーブ自体が店頭にない。あれば中国製の妙に安いもので,なにかこわい。なぜ,あまり売っていないのかわからない。薪ストーブも、最初から候補に挙がっていた。ただ薪ストーブは付けるためには、建築許可から取らねばならない。新設の場合は、天井,床、壁の断熱材の厚さを基にエネルギー計算をしてその証明を提出しなくてはならない。何年も前に建てられた家だと、断熱材の厚さ規制に足らず,建築許可はおりない。この二階の場合それはないとしても、この面積全部が,常時のヒーターを付け、住居と査定されると、家屋税がぐいぐいとあがるだろう。

       また、現代の薪ストーブはおもったよりも高いものなのだ。平均的に$2000ドルくらい。その排気のパイプ類がまた$2000ドルくらい。取り付け工事が$1000ドルはするという。(日本でのコストもそのくらいのものらしい)それに建築許可いっさいのコスト。大変である。昨年付けようと思わなかったのは、なぜそんなに高いのか納得しなかったからだ。鋳物のだるまストーブなら、$200ドル位で売っている。だがそれは屋内では使用禁止のようだ。安いのを探そうとインターネットでしらべた。フランスのアンテイークとか,スエーデン製とか、エナメル仕上げの素敵なのを売っている。値段も新品と変わりない。いいではないかと思ったが、市に連絡してみると、中古を買うのはこの州では違反という事だ。EPA (環境保護局)のシールのついた新品だけよ、、という。新しい薪ストーブは煙を二度焚きすることにより、排煙を少なくしてある。

       EPA は結構なのだが、それら新ストーブを買っても、年に何日も、外気の状態によりそれも使用禁止の日々があるという。なんともまあ,きびしい。薪は外の森にいくといくらでもある。倒木もあるが切って来て、割らねばならない。割った後、一年,二年は乾燥するものだそうだ。これは結構労働だ。薪は買うとするとこのあたりで Ⅰ コード (薪売りの単位で,各辺4フィートの立方体いっぱいということです) $200ドルばかり。これは安いのか高いのか。一日にどのくらい燃やすのか。たいした事ないよ,という人と、結構燃やすのよ,という人がいる。

       昔の家には暖炉というものがあった。ソローの小屋にもあった。あれは見かけは石造りなどで、立派で、「わあーすごい、、、」の中心的存在であった。しかし、実際に使ってみると。驚いた事に、薪を束で,ふたつみっつ燃やしても,家は暖かくならない。(その前に立っている分には暖かい,ソローの小屋は小さかった) 理由は煙突が暖炉の煙と一緒に家中のあたたかさを外に吹き上げるためだ。カリフォルニアでは使っていたが、この北国ではそんな薪の無駄は出来ないし,誰もしない。どうしても暖炉が好きな人は暖炉の前にガラスのふたをつける。また暖炉内に鉄パイプを埋め,それを暖め送風機で温風を送り戻す装置もある。 あるいは EPA 承認のストーブを暖炉内に埋め込む。

 

       最初の冬は電気の赤外線ストーブをふたつと電気のクオーツ ヒーターとかでしのいだ。しかし、「わー暖かい」には遠い。不愉快ではない程度に寒くない。今年は結局、薪ストーブを入れた。わからないけど,入れてみようというギャンブルである。薪小屋も作った。森の倒木を切って来て、若い人に割ってもらった。自分でも出来るけど,二冬ぶんなんて(かわかすのだ)大変な量ですよ。数字でいうとこのストーブは30000 btu の火力となる。法規を読み、メーカースペックをくわしく研究して,自分で取り付けた。何カ所からもらった見積書より,かなり安く押さえる事が出来た。その余分で薪割り機を買った。径50センチ以上の木はなかなか斧では割れないのだ。

       やることにより、わかった事がたくさんある。火力は思った以上で、スタジオ中ぽかぽかとなる。へたをしたら眠くなる。木は一時間に割木一本くらい。優秀である。空気を調整したら、割木四本で三時間くらいいく。ストーブの前についている耐火ガラスに煤が溜る。そのうち又燃えてなくなる煤もある。「あれはいったいどうやって綺麗にするのか」とメーカーに聞くと、少々よいではないかという態度だ。煤が嫌なら、木を燃やさないで中身を入れ替え、ガスを燃やせば、、とかいっている。窓ふきのスプレーをかけて煤をとってみた。しばらくやればとれる。煤も中の火が見えなくなるほどではない。

       これでプロパン代はふえない。電気代もふえない。よく乾いたブナの木も燃やしてみた。あんなもの燃料としては最低でという意見が多かったが、あまり問題はなかった。少しばかり燃えつきるのが早いが、部屋は暖かくなる。煤もたいしたことない。ブナは風でよくたおれる木で、森にいくらでもある。ストーブで火をつける時、紙に付けた火を割り箸のように細く割った木に移らせ,だんだん10センチ,20センチの薪に火を移していく。毎日やるには面倒である。それで,この辺りでは、直径三センチくらいのチョコレートみたいな発火材を売っている。6つで$1ドルとか、安いものだ。それにライターで火をつけ,薪の下に置くと径三センチくらいの薪なら、そのまま放っておいても火がつく。これは実に便利である。

 

           森の維持としての間伐,それを乾かして、薪とする。長い目で見れば、最初が高くても、大変でもまあ,いいのだろう。自然災害とかで、電気もない,ガソリンもない、プロパンもない、状況となると、ひとつ昔風の薪ストープがあるのは悪くない。結果として、ちょろちょろ燃える火をながめているのはいいものである。この上でお茶ぐらい湧かせる。もしもとなれば、食事も作れる。

              しかし、合計してみれば現代の森のシンプル ライフは、結構ものいりである。自分は特に寒がりなのでそのあたりの我慢力がないのだ。